SPECIAL MAGAZINE #9

TAKU 松山博昭

☆Taku Takahashiをナビゲーターに様々なゲストを迎え、『“ASPIRE”= 未来を作る熱』をキーワードに送るトーク番組『#ASPIRE with EMPORIO ARMANI SOUNDS』。前回でレギュラー放送は大好評のうちに一旦終えたものの、多数の方々からのご要望にお応えすべく、特別番組をお届けする。
ゲストは、『ライアーゲーム』などを手がけた松山博昭監督。1月23日にはTVドラマでも人気を博した石井あゆみの人気コミックスの劇場版『信長協奏曲(のぶながコンツェルト)』が公開となった。戦国時代にタイムスリップした主人公(小栗旬)を巡って描かれる新感覚のSF時代劇として話題になっているこの映画のサウンドトラックを手がけているのは、我らが☆Taku Takahashi。新作での2人のコラボレーションを振り返りつつ、松山監督の”ASPIRE”に迫る。

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シーンと音の関係性には特別なこだわりを

☆Taku 「監督の作品はちょっと特殊だと思うんです。例えば『ビブリア古書堂の事件手帖』や『信長協奏曲』で僕を呼んでくれたり、『ライアーゲーム』で中田ヤスタカ君を呼んだりと、ミュージシャンの選択がクラビーで、ダンスミュージック寄りです。皆さんのイメージもわりとそれが定着しつつあるように思うのですが、音楽家を選ぶ時のポイントはありますか?」
松山 「実は僕はダンスミュージックに全然詳しくなくて、ライブラリーも持っていないのですが、元々なぜそういう方向に行ったかというと、“日本のTVドラマ界の音楽が良くないな”と思っていたからなんです」
☆Taku 「“良くない”というのは何かと比べて?」
松山 「大学生時代にタランティーノやダニー・ボイルの映画が既存の曲を集めてサントラに使っていたのを”凄くいいな“と思って観ていたんです」
☆Taku 「しかもカッコいい使い方ですよね」
松山 「そう、カッコいいんです。音楽自体も凄くカッコいいなと思って、学生時代はそういうサントラを聴いていましたが、自分が現場に入ってみると、付く音楽というのが、昔自分が聴いていたサウンドトラックとは何か違う感じがして…。現実問題としてバジェットや時間がないから“無いなりのものを作ってるな”という印象があったんです」
☆Taku 「実際アメリカの作品のバジェットの掛け方、時間の掛け方は日本より全然多いじゃないですか。それは事実ですよね」

松山 「その時に、こういう言い方って失礼なんですが、打ち込み系であれば、バジェットを掛けなくてもクオリティの高いものが上がってくるんじゃないかな、と思ったんです。一番大きいのはそこなんです。あと僕は、ここで一番良い表情をするから、ここに一番良いメロディを持ってくる、みたいな編集を凄くするんですよ」
☆Taku 「今回の映画で一緒に作業している時も、凄くタイミングにこだわっていましたよね」
松山 「このタイミングでニコっと笑うから、ここにサビが来るようにとか、ここはまだ盛り上がらないようにしたいとか。テレビだと毎週放送に追われているので、タイミングに合わせて音楽を作り直せない。そうなると既存の曲を切ったり貼ったりってことになるんですが、打ち込み系はそこが非常にやり易い。それがもしオーケストラの曲となると、切り貼りすると気持ち悪さがあって…」
☆Taku 「自然じゃないですよね。オーケストラに絵面(えづら)を合わせる時は、完全に映像が出来上がっている後でオーケストラを録ったりするのが通常のパターンだけど、そこまでの時間がない」
松山 「☆Takuさんとのお仕事でも、テレビの時は最初に☆Takuさんに作ってもらった曲を切り貼りし編集をしましたが、今回の映画では時間があったじゃないですか。僕が一回切り貼りしたものをお渡しして“ここで良いメロディが欲しいです”とか“ここは熱すぎるんです”とか、全部お願いしてアレンジし直してもらえて…」
☆Taku 「けっこうキャッチボールしましたよね」
松山 「初めて理想的な音楽の作り方ができたな、と思っています」

POSTSCRIPT from #ASPIRE

「ダンスミュージックは詳しくない」としながらも、「このシーンにはこういう音楽が欲しい」とシーンと音の関係性には特別なこだわりを見せる松山監督。「ビジョンを持っている」とは、正にこういうことだろう。自身のこだわりをひとつひとつ着実に形にしていく、それは根気を要する作業であり、いい加減な妥協が許されないシビアな世界。 映画という複合アートの中で松山監督が、映像に付ける音楽を如何に大切に捉え、重視しているかということが伺えるトークであり、非常に興味深く、作り手の情熱を感じさせるものだった。出演者の演技からシーンを構成する美術、音楽、それら多層的な構成要素を指揮し、数々の葛藤を乗り越えて一つのものを仕上げる匠の技と言える映画監督の仕事。 中でも彼がなぜ音楽にこだわるのか、音楽で何を伝えようとしているのか、その制作秘話をひもとく中から二人の個性が響き合ったことをうかがうことができ、映画の仕上がりにおのずと期待が膨らむ。 中身の濃いプロジェクトを完遂した2人ならではのテンポのいい言葉のキャッチボールが、そのクオリティを保証しているであろうことは間違いない。

他人とは異なる「個性を磨く」

☆Taku 「僕と監督はタメで同学年(41歳)。アルマーニも創立41周年なんです」
松山 「凄い偶然ですね」
☆Taku 「アルマーニは『Films of City Frames』というショートフィルムのプロジェクトをサポートしています。映画界の若い才能を支援し、チャンスを与えようというプロジェクトなんですが、昨年のロンドン映画祭で発表されたトリノ・ソウル・シドニー・サンパウロの4都市の大学の学生達が制作したメガネを題材にしたショートフィルム、その4作品をさっき2人で観ましたが、振り返るとどんな印象でしたか?」
松山 「印象は、ちょっと恥ずかしい言葉なんですが“オシャレだなぁ”と思いました。一枚一枚が凄く綺麗であることを追求しているというか、ファッションにも通じているというか。物語を見せることよりも、空間や…観ている時の気持ち良さみたいなもの…」
☆Taku 「映像美?」

松山 「そう、映像美みたいなものを追求している感じがしました。僕らが普段作っている“如何に退屈させないか、ハラハラ、ドキドキさせて感情移入させていくか”という作り方とはまったく違うベクトルから作っているな、と感じました」
☆Taku 「建築が綺麗だったり、映画のコマにハマって“綺麗だな”という作品が多かったですよね。その中で僕はトリノの作品が一番ツボだったんです。しょっぱなでカボチャを落としてましたよね。めっちゃシュールじゃない!って(笑)。ストーリー性や映像美もありつつ、メガネが脚本の良いポイントになっていましたね。 監督は助監督からキャリアを始めたと話してましたが、映画監督になりたい若い人には、どういうアドバイスを与えてあげますか?」
松山 「映画を作る技術を学生の人は学んでいると思うし、それも大切だとは思いますが、そういうのを勉強しなくてもポーンと映画を撮っちゃう人もいっぱいいるわけじゃないですか。それで出来たりもするわけで、だとすると映画全般の知識というよりも、何か突出したもの……美術に対するセンスであったり、映像センスであったり、編集の技術かもしれないですが、何か武器を身に付けるという意識が大切じゃないかと思います」

POSTSCRIPT from #ASPIRE

習得した知識や技術力により、あるレベルまでは行けるかもしれないが、そこから先へステップアップするには、“その人だからこそ”を感じさせる個性が必要となってくる。他人とは異なる「突出したものを身に付けよ」「武器を持て」というアドバイスには、静かなトーンでありながらも、現場で闘ってきた人にしか出せない鬼気迫るオーラを感じとることができた。 プロフェッショナルとして何かを成し遂げる時、このアドバイスは決して映画の世界だけに限った話ではないはずだ。「個性を磨く」言葉にするとシンプルなこのテーマは、自分の個性が一体何なのかを探し当てる永遠の旅路であり、試行錯誤の連続でもある。クリエイティブであろうとすればするほど、それは仕事の場面にとどまらず人生そのものを歩んでいく上で日々意識し続けてゆくべきことになろう。

映画を作る時にヒントになるものは?

☆Taku 「監督が映画を作る時にヒントになるものというのは? ストーリーテリングを重視されていると仰ってましたが、そこに繋がるヒントになるもの、インスパイアされるものというのはありますか」
松山 「実は昔、吉本興業の養成所に通ってたんです」
☆Taku 「あっ、そういう話、前に聞きました」
松山 「大学4年の時に1年間行って“お笑いの才能は無いな”と思いました。それと高校時代にはバンドもやっていました」
☆Taku 「当時、僕も同じバンド大会に出てたんですよね(笑)」
松山 「そうそう(笑)。でも音楽辞めた時も、お笑いを辞めた時も、自分の中では凄く挫折した感じがあって、実は助監督をやり始めた時も辛くて毎日“辞めたいな”と思っていたんです。でも、もう2度も挫折経験があるので“今度は頑張る”と思って。 今になって思うとあの時にやってたことが凄く活きていると思うんです。吉本の養成所でずっと見続けてきたことが、編集する時のリズムであったり、“間”であったりに繋がっていると思っています。あの時期、青春期っていうんですか?」

☆Taku 「多感な時期ですよね」
松山 「その時期にずっとやってた音楽であれ、お笑いであれ、今は全然フィールドは違いますが、その時の経験が自分の財産というか、演出する上でのライブラリーみたいなものになっていると思います」
☆Taku 「その時の経験が作品に影響を与えて、今の良い結果に繋がっているわけですね」

POSTSCRIPT from #ASPIRE

お笑い芸人を目指したこと、音楽アーティストを目指したこともあるという松山監督。若かりし頃の挫折の苦しみは大きかったかもしれないが、それを経験したこと自体が自分にとっての大きな財産である、そんなふうに長い目で見て振り返られる青春時代の体験談は、いままさに青春時代を葛藤とともに過ごしている人にとって大きな励みとなるはずだ。
「一見無駄に思えることも有益な何かに変わる。経験こそが財産だ」——、壁にぶち当たった時、弱音を吐きそうな時に、そっと思い出して自分にいい聞かせたい教訓となりそうだ。

ストイックに自身の能力の向上を目指す

☆Taku 作品作りを長い間続けていると、ネタが尽きたりしませんか?」
松山 「尽きますね。だからインプットの仕方というのは非常に悩むところであり…」
☆Taku 「僕もそれ、凄く悩むんです。多感な頃より感じづらいし…」
松山 「僕は意識して映画を観たり、本を読んだりするようにしていたんです。でも、それだけでいいのかな、と思うようになったんです。ここ数年はずっと仕事が忙しくてインプットできる時間も無くて、物理的に仕事に追われる毎日でした。でもこの信長の映画が終わってまとまった休みが取れて、今は緩やかな日々を過ごしているんですけど、今までだったら次の仕事をどうしようとか、もっと映画を観て勉強しなきゃとか思っていたけど、最近僕は人として成長しなければいけないと思うようになったんです」
☆Taku 「それも凄く大事ですよね」
松山 「要は大人になってないな、と思い始めて」
☆Taku 「アハハ!耳が痛い。僕もそうです」
松山 「かと言って、どうしたらいいかは、まだよく分かってないんです。これまでは仕事に直結する何かを勉強しようと思ってたんですが、最近は、変な話、聖書をたまに読んでみたりとか。何かそういうことを少しずつやって……テクニカルなインプットや情報のインプットではなく、もう少し内から出るものを広げたいと思いつつ……まだ小ちゃいままです」
☆Taku 「人間力ですかね」

松山 「そうですね。でもそれって教科書的に増やせるものじゃない。意識しようと思っているけれど、どうすればいいのかな、と思ってます」
☆Taku 「未来に向けて監督がASPIREすること、熱望・渇望することを教えてもらえますか?」
松山 「今まではとにかく仕事をガツガツやり、少しでもキャリアを伸ばし、でかい仕事ができるようにと意識してやってきたんですが、これからはひとつひとつの仕事を丁寧にやって、人としてちゃんとした人間になれるように頑張らなきゃ、と本当に思っています」
☆Taku 「一緒に仕事をしていて全然ムチャクチャな人とは感じなかったですが…」
松山 「例えば信長の映画がクランクアップしてからも、僕は他人と約束をして食事をしたのって、この半年で2〜3回くらいしかないんです。ずっと部屋に篭りっきりの状態でも全然気にならないんですよ。そうやって自分の殻に閉じこもってしまうので、これからは人との絆も意識して生きていかなきゃと思うんです」
☆Taku 「でも僕が出てたクラブイベントに遊びに来てくれたじゃないですか。凄く嬉しかったですよ」
松山 「その時はたぶん自分を奮い立たせて行ったんだと思います(笑)。 僕は作品のストーリーを作っていく上で、この登場人物だったらこうするだろうな、というような発想が苦手なんですよね。だから(人との絆を意識することで)もっと人の心を分かるようになりたいなと思っています」

POSTSCRIPT from #ASPIRE

「監督って自分に厳しいんじゃないですか?」と☆Takuが思わず尋ねてしまうほど、ストイックに自身の能力の向上を目指す松山監督。人間力とは何なのか。どこから手を付ければいいのか、明確な答えはないが、他人との絆が育まれた時に、いっそう素晴らしい作品を生み出せるはずだ、という監督の直感は我々にもイメージしやすい話ではないだろうか。
ストーリーテリングにこだわる監督が、「もっと人の心を分かるようになりたい」と”ASPIRE”するのは、当然かもしれない。内面から磨きを掛けた監督が次の作品でどういう変化を見せてくれるのか、今から楽しみになってくる。

SPECIAL MAGAZINE #9
EDITOR'S NOTES
クリエイターがものを生み出す際のプロセス面での苦労と、精神面での苦労の両方を感じることができたこの対談。生みの苦しみを痛感させられると同時に、「挫折も財産」というポジティヴな考え方に感心させられた。
そして決して現状に満足しない、という自らに対する厳しい姿勢が、前進を促す大きな原動力となっているのではないかと感じた。小手先の技術を磨くのではなく、自身を内面から変えていく。そんな監督の心の持ち方は、何かのプロフェッショナルを目指す人にも、すでにあるレベルのプロフェッショナルとして生きている人にも、新鮮な教訓として心に刻んでおく価値のあるスタンスではないだろうか。

松山博昭

1973年8月14日生まれ、岐阜県出身。 TVドラマ「ライアーゲーム シーズン1・2」(07,09)の演出を手掛け、2010年公開の「ライアーゲーム ザ・ファイナルステージ」で初の映画監督をつとめた。

その後の代表作として、「ライアーゲーム 再生」(12)、『鍵のかかった部屋』(12)、「失恋ショコラティエ」(14)、「信長協奏曲」(14)などがある。

#ASPIRE NEWS

  • 2016年も、新たな化学反応が生まれる!

    EMPORIO ARMANIとblock.fmが作り上げてきた、豪華ゲストたちによる刺激的なコラボレーションを生み出してきた番組#ASPIRE with EMPORIO RMANI SOUNDS。
    2015年11月に放送した番組がきっかけで実現した、☆TakuとMINMIのコラボレーションの発表や、新たに始まる番組のアーカイブ、EMPORIO ARMANIが主催する音楽イベントなどの最新情報は、2016年も引き続きこちらのスペシャルサイトでご案内いたします。2015年の番組アーカイブも引き続きお楽しみいただけますので、ぜひご覧ください。

    2016年も、新たに始動する#ASPIREをお見逃しなく!